公認会計士・税理士・損害保険仲立人の長谷川賢哉です。島では「けんちゃん」と呼ばれています。
前回、移住と開業初年度の数字を書いたところ、一番聞かれたのが「で、離島の顧問料っていくらなの?」でした。士業が一番気になるのに、一番人には聞けない話だと思います。なので、実額で書きます。
まず、金額を出します
もったいぶっても仕方ないので、うちの基本料金の最低ラインを先に出します。
- 月額顧問料:月2万円〜
- 決算報酬:18万円〜
- そのほか、年末調整や法定調書などはスポットで
たとえば売上高5,000万円以下の会社なら、月2万円×12か月に決算報酬18万円、スポットを足して、年間でだいたい50万円ほど。前回「1社あたり年50万円ほど」と書いたのは、この積み上げです。あくまで最低ラインなので、規模や業種によってはここから上がります。
特別な離島価格ではありません。種を明かすと、名古屋で勤めていた事務所で使っていた料金表を、少しアレンジして持ってきただけです。移住して料金体系をゼロから作った、みたいなドラマはありません。
記帳代行は、基本的に受けたくない
料金と一緒に、方針も正直に書きます。うちは基本的に、お客様に自計化(自社で会計ソフトに入力してもらうこと)をお願いしています。記帳代行は、原則として受けたくない仕事です。
理由ははっきりしています。まず、いまの会計ソフトは本当によくできていて、お客様側で入力するのは絶対にできると確信しているからです。かつてのように専門家でなければ扱えないものではありません。
もう一つ、これは士業の方に特に言いたいのですが、入力そのものの業務は、今後ほぼ確実にAIに取って代わられます。丸投げの記帳代行に事務所の人手を割くことは、遠からず価値がなくなる作業に、いま一番貴重なリソースを注ぎ込むことだと思っています。うちのスタッフには、もっと価値の残る仕事に時間を使ってほしい。
事務所が力を注ぐべきなのは、入力された数字を見て、一緒に経営を考えることのほうです。だから入力は、できる限りお客様自身の手に残してもらいます。
ただし例外もあります。ひとり社長で経理担当がおらず、どうしても丸投げしたいという場合は受けています。全員に同じ型を押し付けるほど、離島の商売は硬くやれません。
金額についても、同じです。料金表には載せていませんが、八重山では特別な契約をすることもあります。なんとか会計をきちんとしたい、事業を伸ばしたいという意欲がはっきりある方には、こちらから踏み込んだ条件を出すこともある。それは僕が、この仕事を通じて沖縄の所得水準を上げたいと本気で思っているからです。島の事業者が伸びることが、めぐりめぐって僕の仕事にもなる。だから、目先の採算だけで線を引きたくない場面があります。
超絶値引きした最初の契約は、今も赤字。それでも正解でした
ここで、値引きの話を2つします。まったく逆の結果になった2つです。
1つめは、前回書いた「旅行中に配った名刺に、本当に電話がかかってきたお客様」。うちの八重山で初めてのクライアントです。実は僕には、独立したときに立てた目標のひとつに「沖縄にお客様を作る」というのがありました。正直に打ち明けると、経費で沖縄に行けるようにしたい、という打算もありました。
だから、その電話が本当にかかってきたとき、僕はどうしても受任したくて、超絶値引きをしました。今でも赤字契約だと思っています。
それでも、この値引きは正解でした。なぜなら、そのお客様からの紹介が次を呼び、その次を呼び、今の八重山での仕事のほぼ全部がここから繋がっているからです。狙って作りにいった沖縄の一件目は、採算を度外視してでも取りにいく価値があった。これは僕の実感です。
同じ値引きでも、値切られて受けた契約は僕を疲弊させた
2つめは、独立して間もない頃の話です。ある商売人のお客様に報酬を値切られ、その金額で契約しました。
これがきつかった。安く受けた上に、スピードも品質もすべてを当たり前のように求められ、僕はすっかり疲弊してしまいました。
同じ「値引き」なのに、なぜ1つめは正解で、2つめは失敗だったのか。今ならはっきり分かります。違いは金額ではありません。誰が主導権を持って値段を決めたか、です。
八重山初のクライアントは、僕が戦略として自分で決めた値引きでした。だから納得して受けられた。一方、値切られた契約は、主導権が相手にありました。値段を相手に握られた瞬間から、その関係の主導権も相手のものになる。安さで受けた仕事は、安さ以外の要求まで芋づるで付いてきます。
ちなみに日常的には、顧問の相談を受けて料金を提示し、「検討します」と言われてそのまま連絡が来ないことも何件もあります。価格で選ばれなかった、ということです。でも、それでいいと思っています。
それでも、安売りする必要はない
この2つの経験から、これから独立する士業に一つだけ言うなら——相手に言われるままの安売りは、する必要がまったくないです。
独立した直後は、とにかく売上が欲しい。だからつい、値切られても受けてしまう。その気持ちは痛いほど分かります。僕自身がそうでした。
でも、値切られて安く獲得したお客様は、判断基準が「金額」のままです。すると何が起きるか。善意でサービスとしてやってあげたことが、だんだん「当たり前」になっていく。感謝が消え、値段だけで見られる関係になっていきます。あの疲弊は、そこから来ていました。
長く信頼関係を築いていきたいなら、きちんと利益が残る価格を、自分で決めて提示してください。相手に握られた値段で取った関係は、相手のペースでしか続きません。八重山初のクライアントのような、自分で決めた戦略的な例外はあっていい。でも、値切られるままの契約を常態にしてはいけない。これは、赤字契約を抱えながらそう考えている僕が言うので、少しは説得力があるはずです。
これは「僕の場合」です
いつもの留保を置きます。ここに書いた金額は、石垣島で事務所を営む、僕の場合の料金です。あなたの地域、あなたの顧客層、あなたの資格では、適正な価格はまるで違うはずです。
僕は「この金額にしなさい」と答えを渡すつもりはありません。渡せるのは、うちの実額と、その裏にある考え方だけです。これを材料に、ご自身の値決めを考えてみてください。