公認会計士・税理士・損害保険仲立人の長谷川賢哉です。島では「けんちゃん」と呼ばれています。
前回は税務という本業の話をしたので、今日はまた暮らしの側に戻ります。テーマは「島の一年」。移住して知った、八重山の季節のめぐりについて書きます。内地とはまるで違うリズムで、この島の一年は回っています。
冬でも半袖、そして花粉がない
まず大づかみに言うと、この島には内地のような四季がありません。あるのは、長い夏と、風の強い冬。そのあいだに、短い春と秋がちらっと挟まる、という感じです。
冬でも最低気温は14度くらい。ただ、寒くないかというと、そうでもありません。風が強い日が多いので、体感としてはしっかり寒い。ただ、天気が良い日は昼間なら半袖でも過ごせます。名古屋にいた頃のあの底冷えとは、種類の違う寒さです。
梅雨の時期もずれています。八重山の梅雨入り・梅雨明けは、内地より1か月ほど早い。ゴールデンウィークが明けたころに梅雨に入り、6月下旬には明ける。そして梅雨が明けたら、そこから10月くらいまで、ずっと夏です。
そして移住して一番ありがたかったこと。花粉がありません。あの季節の憂鬱から解放されるだけで、春の過ごしやすさがまるで違います。地味ですが、これは移住の隠れた特典だと思っています。
島の一年は、観光の波で動いている
島に住んでいると、季節を気温よりも「観光の波」で感じるようになります。
3月中旬に海開き。春休みと重なって、観光の方が一気に増えます。4月に入るといったん落ち着き、ゴールデンウィークでまた増える。連休明けに梅雨入りして、また静かになる。そして6月下旬の梅雨明けから、10月くらいまでが本番の夏です。この時期はクルーズ船の入港も連日あって、海外からの観光客の方々で島が賑わいます。
住んでいると「今週は人が多いな」「そろそろ落ち着くな」というのが肌でわかるようになる。島の経済そのものが、この波と一緒に呼吸している感じがします。
台風が来る前、スーパーから消えるもの
移住を考えている方が一番リアルに知りたいのは、たぶん台風でしょう。正直に書きます。
まず驚いたのが、台風の直前に島のスーパーやコンビニから物が消えることです。しかも、消える品目が内地の感覚とちょっと違う。水はもちろんですが、軍手、カセットボンベ、ガムテープや養生テープ、エアーキャップ(いわゆるプチプチです)、電池、ランタン、クーラーボックス、保冷剤、タンク。これらが売り場からきれいに無くなります。窓を守り、停電に備え、水を確保する。島の人たちが何に備えているかが、空っぽの棚から伝わってきます。
そして、台風が過ぎた後がまた大変です。台風の雨には海水が含まれているので、窓や車がベタベタして白くなる。だから台風が去ったら、真水で洗い流さないといけません。その結果どうなるか。洗車場に、数日間ずっと行列ができるんです。台風一過の青空の下、みんなで黙々と車を洗っている。これも移住するまで、想像したことのない光景でした。
玄関にびっしり並んだ、靴とサンダル
季節の行事で、一番印象に残っているのは旧盆です。
八重山の旧盆は、親戚一同が一つの家に集まって過ごします。この光景が、名古屋での暮らしにはまったくなかったので、心底驚きました。玄関に、靴とサンダルがびっしり並んでいる。あの光景が、今も目に焼きついています。人と人との繋がりの強さが、そのまま形になっているようでした。
お墓のあり方も違います。沖縄のお墓はとても立派で、そのお墓の前で、みんなで飲んだり食べたりする。最初は驚きましたが、参加してみて、ご先祖さまを本当に大切にしている文化なのだと感じました。故人を悼む場というより、家族が集まる場所なんですね。
冬の島は、実は天気が悪い
意外に思われるかもしれませんが、沖縄の冬は、けっこう天気が悪いんです。曇りや雨が続き、海も荒れる。「南の島=常夏の青空」というイメージで来ると、冬に肩透かしを食います。
そして、これは観光業にとって死活問題です。冬は観光がぐっと落ち込むので、島の観光事業者さんは、夏のあいだに一年分を稼ぎきるイメージで動いている。この繁閑の落差の大きさは、島の産業を数字で見る立場になって、より強く実感するようになりました。
マンタの季節に、僕は事務所にこもっている
でも、冬の八重山にも特別なものがあります。マンタです。
冬になると、黒島の近海で、マンタが餌を食べに水面近くまでやってきます。ダイビングではなく、シュノーケルで、目の前に巨大なマンタが現れる。あの迫力は、ちょっと言葉になりません。
ところが、です。僕にとって冬は、一年で一番忙しい季節でもあります。12月の年末調整、1月の法定調書と償却資産申告、2月は12月決算法人の申告、そして3月の所得税の確定申告。税理士の繁忙期が、まるごと冬に重なっている。
つまり、目の前の海にマンタが来ているのに、僕は事務所にこもって申告書を作っているわけです。「日本一自由な士業」を名乗っていても、季節と締切だけは選べません。島の一番いい季節と、税理士の一番忙しい季節が、きれいに重なっている。これも島で仕事をするということなのだと思います。
4月の本マグロ、5月からのパインとマンゴー
食の季節も、内地とは違います。
4月になると、本マグロと生モズクが出てきます。特に生モズク。内地のパックのものとは、まるで別の食べ物です。そして5月から7月にかけては、パインとマンゴー。島で採れた完熟のものを、その場で食べる贅沢は、ここに住んでいる特権だと思います。
「この季節にはこれ」というものが、はっきりある。スーパーに並ぶものが変わるだけで、季節が進んでいくのが分かる。都会にいた頃は、一年中同じものが手に入るのが当たり前でしたが、島では旬がちゃんと季節の目印になっています。
「けんちゃん」と呼ばれるようになった
最後に、島の一年を過ごしていて、しみじみ「ああ、島に来たな」と感じた話を。
旧盆などで親戚一同が集まると、いくつもの家族が合流して、子どもたちが15人くらい家の中に集結します。もう大騒ぎで、家じゅうを走り回っている。
その子たちが、いつの間にか僕のことを「けんちゃん」と呼ぶようになりました。誰が教えたわけでもなく、自然に。そして年に何度か会うたびに、少しずつ大きくなっていく。去年より背が伸びたな、しゃべり方が変わったな、と。その成長を見守らせてもらっている。
顧客でも、仕事の関係者でもない、ただの島の子どもたちです。でも、彼らに名前で呼ばれるようになったことが、僕にとっては「この島で暮らしている」ということの、一番の実感かもしれません。移住とは、こういうことなのだと思います。
これは「僕の場合」です
いつもの留保を置きます。ここに書いたのは、移住して数年の、僕の目に映った八重山の一年です。もっと長く暮らしている方から見れば、まだまだ表面的なことしか見えていないと思います。島によっても、集落によっても、季節の過ごし方はきっと違うはずです。
僕は答えを渡すつもりはありません。渡せるのは、僕が過ごした一年の手触りだけです。あなたが島で暮らすとしたら、どんな一年になるのか。それは、あなた自身が確かめてみてください。